【中小企業白書2025年度版-事例紹介②】地域金融機関の事業性評価実践例
中小企業白書2025年度版に掲載された諏訪信用金庫による株式会社スギムラ精工の支援事例は、中小企業診断士試験で学ぶ「事業性評価」や「ローカルベンチマーク(ロカベン)」の実践活用例として非常に興味深い内容です。この事例を通じて、診断士として身につけるべき企業分析手法や金融支援の実務について詳しく解説していきます。
企業概要と課題
長野県岡谷市の株式会社スギムラ精工は、自動車部品をはじめとした各種精密部品の設計、金型製作、加工を行う金属プレス加工業者です。同社は顧客のニーズにワンストップで対応できる一貫した加工技術に強みを持ち、コロナ禍を経ても売上げの増加傾向が続く優良企業でした。しかし、売上増加に伴う売上債権等の増加と近年の資材高騰の影響により、運転資金の資金繰りに不安を抱えていました。
事業性評価の実践
諏訪信用金庫の奥山真司部長は、同社の成長性を見込み、シンジケートローンの組成を企図しました。中小企業診断士試験の「企業経営理論」や「財務・会計」で学ぶ資金調達手法の実践例です。ここで重要なのは、単なる財務分析ではなく、ロカベンを活用した総合的な事業性評価を実施した点です。これは診断士が企業支援で実際に行う分析手法そのものです。
ロカベンの活用方法
同金庫はロカベンの「商流・業務フロー」及び「4つの視点」から同社の強みを可視化しました。商流・業務フローでは、工場での現地調査や従業員との対話を通じて、理論に基づくプレス成型技術による独自の生産工程を把握。これにより、コスト低減と生産数量増加を実現する同社の競争優位性を明確化しました。中小企業診断士試験の「運営管理」で学ぶ生産管理の知識が直接活用されています。
経営資源の分析
「4つの視点」による分析では、同社の非財務的な強みに着目しました。創業者の息子である杉村博幸社長を中心とした家族経営体制、技術部長の次男、製造部長の三男による高度な分業・管理体制を評価。さらに、総務部長として社長夫人が女性の働きやすさや外国人技能実習生を含む人材育成に取り組んでいる点も強みとして認識しました。これは診断士試験の「人的資源管理」の実践例そのものです。
シンジケートローン組成
ロカベンによる詳細な事業性評価の結果、2024年7月に諏訪信用金庫、商工組合中央金庫、長野県信用農業協同組合連合会による総額18億6,000万円のシンジケートローンが組成されました。この事例は、中小企業診断士が学ぶ「中小企業経営・政策」の金融支援制度の実際の活用例として非常に参考になります。単なる資金調達ではなく、企業の成長戦略を支える戦略的な金融支援の実現です。
診断士への示唆
この事例から中小企業診断士が学ぶべき点は多岐にわたります。まず、財務面だけでなく、技術力、人的資源、組織体制など多角的な視点から企業を評価する重要性です。また、ロカベンのような標準化されたツールを活用することで、金融機関との情報共有が円滑になり、より効果的な支援が可能になることも示されています。さらに、地域金融機関との連携による企業支援の可能性も大きな学びです。
KEC中小企業診断士講座マネージャー佐野
引用:中小企業白書2025年度版