【中小企業白書2025年度版-事例紹介➆】8社連携DXで生産性向上を実現

【中小企業白書2025年度版-事例紹介】8社連携DXで生産性向上を実現

中小企業診断士を目指す皆さんにとって、実際の企業連携によるDX成功事例を学ぶことは、試験対策と実務の両面で大変重要です。今回は中小企業白書2025年度版から、広島県の株式会社広島メタルワークの事例を通じて、企業間連携によるシステム開発と生産性向上の手法を分析します。この事例は「企業経営理論」における戦略的提携や「運営管理」の生産管理システム導入など、中小企業診断士試験の重要分野が凝縮された優良な学習材料となります。
DX化の必要性認識
株式会社広島メタルワークは、産業用機械部品の精密板金加工を手掛ける企業です。1995年のWindows 95発売を契機に、大手取引先がコンピューターによる受発注処理にシフトする中、前田啓太郎社長(当時常務)は早期にDXの必要性を認識しました。これは中小企業診断士が学ぶ「環境変化への適応」の典型例です。市販の生産管理ソフトを約3,000万円で購入したものの、接続台数制限により全工程での活用には1億円超の費用が必要となり、限られた工程でしか使用できませんでした。この状況は、中小企業が直面する「資源制約下での戦略選択」という重要な経営課題を示しています。
企業連携の発想
前田社長は「生産管理は受注の入口から出口までを管理することが重要」という明確な理念を持っていました。この課題解決のため、大手金属加工機械メーカーの後継者育成講座で知り合った中小企業8社の経営者と生産管理の勉強会を継続実施していました。この取り組みは、中小企業診断士試験で重要な「ネットワーク組織」や「戦略的提携」の実践例です。2003年、静岡大学教授の協力を得て、8社共同での生産管理ソフト開発に着手しました。産学連携による課題解決アプローチは、現代の中小企業経営において非常に重要な手法として注目されています。
共同開発の成果
8社の勉強会で生まれたアイデアを取り入れ、どの企業の使い勝手にも特化しないフラットな仕様をスタンダードとして、中小製造業特化の生産管理ソフト「TED」を開発しました。この製品の特徴は、簡易かつ直感的な操作性と、同時接続台数に制限がなく、フルスペックで約1,000万円という大手ベンダー比較で安価な導入費用です。前田社長は「自社開発では自社のやり方を『正』として開発が進むが、他社との共同開発では、意見交換の中で自社が必ずしも『正』ではないことに気付き、より良い開発につながった」と振り返っています。これは中小企業診断士が重視する「客観的視点」の重要性を示しています。
導入効果と成果
2017年の「TED」全面導入により、各社員のPCで受注ごとの生産工程や図面がリアルタイムで確認可能となりました。生産現場には視認性を重視した大型モニター配置などの工夫も行いました。導入効果として、進捗確認のための無駄な移動や図面探しが減少し、図面の視認性向上により作業ミス防止にも寄与しました。2017年と2021年の比較では、社員一人当たり売上高が8.6%増加する一方、労働時間は15.9%減少し、生産性が飛躍的に向上しました。さらに、蓄積データを活用した不良工程のアラート表示により、不良率は97%も減少しました。これらの数値は、中小企業診断士が企業支援で重視する「定量的効果測定」の好例です。
診断士への学習価値
この事例から中小企業診断士試験に関連する学習ポイントを整理すると、まず「企業間連携による課題解決」の重要性が挙げられます。単独では解決困難な課題も、同業他社との連携により効果的な解決策を見出せることを示しています。次に「産学連携の活用」です。大学との連携により専門知識を活用し、技術的課題を克服する手法は現代経営で重要です。また「段階的なDX推進」として、一度に大規模投資するのではなく、段階的にシステムを構築し効果を確認しながら進める手法も学べます。前田社長の「既存のデジタルツールに合わせて仕組みを変える」という発言は、変革管理における重要な視点を示しており、診断士として企業支援する際の貴重な指針となります。
KEC中小企業診断士講座マネージャー佐野
引用:中小企業白書2025年度版
実現した企業概要
株式会社広島メタルワーク
所在地:広島県広島市
従業員数:53名
資本金:1,000万円
事業内容:金属製品製造業