【ブログ】学び直しの正念場<
AI時代の現実
最近、「学生生活が楽になっている」と耳にしました。きっかけは、ブルームバーグ「AIが変える学びの形、ChatGPT時代に問われる大学の存在意義-社説」の記事です。ChatGPTをはじめとした生成AIの進化により、学生が数分でレポートを完成させる光景が珍しくなくなった、という内容でした。
教育の現場に身を置く者として、これを他人事とは思えません。特に、学び直しや資格取得に挑む社会人が多い「中小企業診断士講座」では、「自分で考える力」が不可欠です。しかし、便利すぎるツールに頼るあまり、その力が鈍ってしまうリスクも感じています。
学びの質は、効率だけでは測れません。手間をかけ、苦しんでこそ得られる「気づき」や「腑に落ちる瞬間」が、本物の学びだと私は思います。AIはそれをサポートしてくれる存在ではありますが、決して代替ではないのです。
問い直す学び
私たちが中小企業診断士講座を通じて伝えたいのは、「問題を発見し、解決する力」です。そのためには、表面的な答えではなく、本質に迫る問いが必要になります。ですが最近、受講生の中にも「AIに聞いたらこう出ました」と言って終わる場面が増えてきました。
もちろんAIの活用にはメリットがあります。時間短縮、情報整理、アイデア出しなど、使い方次第で大きな味方になります。ですが、大切なのは「AIに何を聞くか」、つまり問いの質です。問いが浅ければ、得られる答えも薄くなります。
私自身、講座設計や教材作りの際にAIを使うこともあります。でも、必ず自分の視点や現場感覚を持ち込みます。「これはうちの受講生に合うか?」「ちゃんと腹落ちするか?」と考えながら使うことで、はじめて意味のあるアウトプットが生まれると感じています。
リアルの力
実は今、KECでも「対面」の価値を見直しています。AIが浸透するほど、人と人が直接向き合う場の力が増すからです。たとえば、講師と受講生のちょっとした雑談から生まれる気づきや、グループワークでの他者との比較が、自分の理解を深めるきっかけになることもあります。
また、紙とペンでメモを取りながら話を聞くことも、学びの定着には重要です。スマホで撮ったスライドを見るより、自分の言葉で書いたメモの方が記憶に残る。そんな「アナログ」の価値を、あえて重視する姿勢も今後ますます求められると感じます。
私たち教育に携わる者は、AIを敵視する必要はありません。でも、流されてはいけない。どこまでがAIの仕事で、どこからが人の仕事なのか、その線引きを持ち続けることが大事だと思います。
学び直しの覚悟
社会人の学び直し、リスキリングが注目される今、「楽に学べる」だけで選ぶのは危険です。特に中小企業診断士のように、現場での実践力や思考力が問われる資格では、「自分で悩んだ経験」が後で活きます。
効率化を求める一方で、じっくり学ぶ覚悟も必要です。AIをうまく使いながらも、「自分の言葉で、自分の考えを語れる」ようになる。そんな本物の学びを、これからも提供していきたいと私は思っています。
「読み、書き、そしてプロンプトを頼る時代」と言われる今だからこそ、学びの意味を問い直すことが、教育の現場に立つ私たちの責任ではないでしょうか。
KEC中小企業診断士講座マネージャー佐野
引用:ブルームバーグ「AIが変える学びの形、ChatGPT時代に問われる大学の存在意義-社説」
論説委員室