【中小企業白書2025年度版-事例紹介➃】秩父の老舗菓子店の海外展開戦略
【中小企業白書2025年度版-事例紹介】秩父の老舗菓子店の海外展開戦略

中小企業診断士試験で学ぶ経営理論が、実際の企業でどのように活用されているかを、株式会社イノウエの海外展開事例を通じて詳しく解説します。
1949年創業の株式会社イノウエは、埼玉県秩父郡長瀞町に本社を置く老舗菓子店です。川越市内では「小江戸まめ屋」として親しまれ、秩父地方の幻の大豆「秩父借金なし大豆」を使用した和菓子で地域に根ざした事業を展開してきました。しかし、2019年からのコロナ禍により売上が低迷し、経営方針の大転換を余儀なくされました。
危機を機会に変える戦略転換
中小企業診断士の視点:外部環境の変化に対応した経営戦略の転換は、診断士試験の「企業経営理論」で学ぶ重要テーマです。イノウエ社は、国内市場の縮小というピンチを海外展開のチャンスに転換しました。
井上社長は、腕利きの和菓子職人の手技で作り上げた豆菓子の味を世界中に広めたいという想いから、海外需要の獲得を決意。取引先の商社からジェトロを紹介され、新規輸出1万者支援プログラムへの参加を決定しました。この判断は、外部リソースを活用した戦略的アプローチの典型例といえます。
市場調査の重要性
成功要因:ジェトロの「海外ブリーフィングサービス」を活用し、タイや近隣国の市場規模、規制、現地の食文化や味の嗜好等を徹底的に調査しました。
中小企業診断士試験の「運営管理」で学ぶマーケティング理論では、市場調査の重要性が強調されますが、イノウエ社はまさにこの理論を実践しています。海外展開という未知の領域において、現地情報の収集から始めたことが、その後の成功の基盤となりました。専門家のハンズオン支援を受けながら、海外商談に向けた準備を着実に進めていったのです。
実践的な展開戦略
2024年1月、バンコクで開催された「JAPAN SELECTION」への出展は、同社にとって重要な転機となりました。プロモーションや商談を重ねた結果、現地の日系小売事業者から高く評価され、テスト販売のオファー獲得につながりました。これは「中小企業経営・中小企業政策」で学ぶ海外展開支援制度の活用事例として非常に参考になります。
帰国後も交渉と準備を継続し、同年8月からバンコクのタニア地区店舗でテスト販売を開始。11月には「Siam Takashimaya 6周年記念」にポップアップ店舗を出店するまでに至りました。
持続的競争優位の構築
イノウエ社の強みは、秩父地方の幻の大豆「秩父借金なし大豆」という希少な原材料と、最高技法の手技による製造技術にあります。これらは「企業経営理論」で学ぶ競争優位性の源泉そのものです。日本お土産アカデミーでグランプリ賞を受賞した実績も、ブランド価値向上に大きく貢献しています。
将来展望と学習ポイント
診断士試験のポイント:同社は更なる海外市場開拓を目指し、常温長期保存やハラール対応等、輸出規制をクリアする商品の開発・生産に向け、新工場建設に着手しています。
これは「運営管理」の生産管理や品質管理の理論を実践した事例です。海外展開には現地の規制や文化に適応した商品開発が不可欠であり、イノウエ社はこの課題に積極的に取り組んでいます。秩父の食材を活かした豆菓子を世界中に広めるという明確なビジョンのもと、戦略的な投資を継続していく姿勢は、まさに中小企業診断士が提案すべき成長戦略の模範例といえるでしょう。
まとめ:株式会社イノウエの事例は、中小企業診断士試験で学ぶ理論が実際の経営現場でどのように活用されるかを示す貴重な事例です。戦略転換、市場調査、競争優位性の構築、海外展開戦略など、診断士として必要な知識が総合的に活用されています。
KEC中小企業診断士講座マネージャー佐野
引用:中小企業白書2025年度版