【中小企業白書2025年度版-事例紹介➉】賃上げ実現の経営戦略


課題の明確化
2025年度版中小企業白書に掲載された滋賀県彦根市の「株式会社千成亭風土」は、近江牛の生産から飲食店の運営までを一貫して行う企業です。240名の従業員を抱え、地域に根差した事業展開を行ってきた同社ですが、新型コロナウイルス感染症の影響で飲食部門の売上が大きく落ち込み、2020年度には前年比10%を下回る月も発生。長年継続してきたベースアップも止まり、従業員のモチベーション維持と人材確保が大きな課題となりました。
効率化投資
経営再建の鍵となったのが、省力化と利益体質の強化です。まず取り組んだのが、バックヤード作業の機械化。従業員アンケートなど現場の声をもとに、手間と時間のかかる工程を特定し、自動化を進めました。この改善により、品質の安定や食材ロスの削減も実現。人の手でしかできない接客や調理といった業務に人員を再配置し、店舗全体のサービス向上にもつながりました。これは中小企業診断士試験における「オペレーション戦略」の好例です。
価格戦略
加えて重要だったのが「価格転嫁」の実行です。コスト構造を洗い出し、製品やメニューの価格を見直しました。高品質な近江牛製品を安定供給できる体制が整ったことで、価格の底上げも実現し、顧客への価値提案と利益確保の両立に成功。こうした価格戦略や利益改善のアプローチは、中小企業診断士試験の「財務・会計」「マーケティング戦略」にも通じるテーマであり、実務家としての思考力が問われる領域です。
人材の定着
機械化や価格転嫁による利益確保は、3年ぶりの賃上げにつながりました。2023年度には正社員の基本給を3.1%、パート・アルバイトの平均時給を4.5%引き上げることが可能に。また、繁忙期の残業時間は57時間から30時間へと半減。新卒採用数も増加し、離職率も大きく改善。こうした「従業員満足度の向上→人材確保→サービス品質向上→業績改善」の好循環は、経営理論に基づいた改革の成果といえます。
学びを活かす
この千成亭風土の事例は、中小企業診断士としての知識が現場でどのように活かされるかを示しています。オペレーションの効率化、価格戦略、人事施策、財務分析、従業員エンゲージメントといった分野を横断的に理解し、実行に移す力こそが、今の中小企業には必要不可欠です。KEC中小企業診断士講座では、こうした知識と現場のつながりを意識した学習カリキュラムを提供しています。
これからの展望
飲食業界は依然として厳しい環境に置かれていますが、千成亭風土のように「現場の声に耳を傾け、変化に対応する力」を持った経営が、今後の中小企業の生き残りと発展のカギとなるでしょう。「労働環境が厳しい」と言われる業界のイメージを覆すような取り組みが、実際の数値として成果を出しています。中小企業診断士としてこうした企業の改革を支援できることは、大きなやりがいとなります。
おわりに
人・モノ・金、そして情報を活かす戦略的な経営支援が求められる今、中小企業診断士の役割はますます重要になっています。KECでは、理論を実践に活かすための「本物の診断士力」を育てる講座を展開しています。経営者に寄り添い、現場の変革を共に実現していく力を、あなたも身につけてみませんか?
KEC中小企業診断士講座マネージャー佐野
引用:中小企業白書2025年度版