【中小企業白書2025年度版-事例紹介⑪】離島支える承継戦略


島の物流
2025年度版『中小企業白書』で紹介された長崎県五島市の「株式会社奈留島運輸」は、離島・奈留島で暮らす人々の生活を物流の面から支える企業です。生活必需品や建設資材などの運搬を手がけるほか、九州本土と島をつなぐ重要な流通の役割を担っています。この企業が新たに取り組んだのが「事業承継」。それも、地域社会のインフラとも言えるスーパーマーケット「新鮮館すずらん」を自らの手で継ぐという、極めて公共性の高いミッションでした。
後継者難
「新鮮館すずらん」の元経営者・鈴木代表は高齢となり、島内に後継者がいない中で廃業を決意。すでに島内のスーパーは2店舗のみであり、1店が閉じれば地域の利便性が一気に低下してしまう状況でした。そんな中、事業承継・引継ぎ支援センターの伴走支援により、奈留島運輸の柿森社長が候補に。異業種への挑戦という不安もあった中、「島民のため」という想いを原動力に、スーパーマーケット事業の承継を決断します。
承継の実務
この事例は、中小企業診断士試験で学ぶ「事業承継」「地域経済の活性化」などの論点と強く結びついています。特に重要なのは、承継に向けた意思決定プロセスと、関係機関との連携です。支援センターや商工会のサポートによって、契約や従業員の雇用継続などの手続きをスムーズに進めることができた点は、診断士としての「支援の実務」を理解するうえで非常に示唆的です。実際、全従業員19名の雇用が守られ、地域経済への影響を最小限に抑えることができました。
経営の転換
とはいえ、運送業とは異なるスーパーマーケット業の経営には、価格設定や在庫管理など新たな難しさも伴います。柿森社長は、地域のニーズをくみ取りながら、従業員や常連客の声を活かした店舗運営を模索。ここには「マーケティング」「オペレーション管理」「組織マネジメント」といった中小企業診断士の知識が活用される余地が大いにあります。特に、地域住民の声を施策に反映する姿勢は、サービス業における価値創出の本質を示しています。
仕入と改善
離島という地理的条件により、商品の仕入れには制約があります。現在は、卸業者が奈留島を避ける傾向にあり、商品ラインナップの確保が喫緊の課題です。柿森社長は「自ら仕入れ先を開拓し、島民の声を反映した魅力的な品揃えを実現する」と語ります。こうした主体的な改善活動こそが、「経営戦略」の真髄であり、中小企業診断士が伴走支援で果たすべき役割そのものです。
学びの視点
この事例から、中小企業診断士として学ぶべき視点は多岐に渡ります。①後継者不在による地域課題、②地域密着型事業の維持、③異業種参入によるリスク評価とマネジメント、④支援機関との連携、⑤従業員の雇用維持と再教育など、すべてが試験科目に通じます。KEC中小企業診断士講座では、こうした「リアルな経営課題」を理論と結びつけて学び、実践で活かす力を養うことを目指しています。
地域と共に
新鮮館すずらんは、単なる「買い物の場」ではなく、「地域のコミュニケーションの場」でもあります。柿森社長が承継を決めた背景には、島の未来を見据えた責任感と覚悟がありました。こうした地域密着の経営を支える存在として、中小企業診断士が果たせる役割は今後ますます大きくなっていくでしょう。
おわりに
過疎化・後継者不足という深刻な課題を抱える地域社会において、「事業承継」は単なる経営問題ではなく、地域そのものを支える手段です。中小企業診断士という資格は、その現場を支える知見と実行力を兼ね備えた存在として、ますます求められています。あなたも、KECでその一歩を踏み出しませんか?
KEC中小企業診断士講座マネージャー佐野
引用:中小企業白書2025年度版