令和8年度 中小企業診断士 第1次試験 「企業経営理論」全体レビュー
令和8年度 中小企業診断士 第1次試験
「企業経営理論」全体レビュー
平均得点、問題別正答率、難問ランキング、受験生の解答傾向を分析し、 今回の試験で明らかになった課題と、次年度に向けた具体的な学習方法を解説します。
令和8年度中小企業診断士第1次試験「企業経営理論」について、 本試験問題・協会公表正答と、KEC自己採点フォーム302名分の回答データをもとに分析しました。
令和8年度は全41問・100点満点で、 問題ごとに2点または3点が配点されています。
01全体平均
02全体総評
令和8年度の企業経営理論は、平均得点が60点を上回っているものの、 決して単純な試験ではありませんでした。
全体としては、 「基本論点は得点しやすい一方、長文事例・周辺論点・ 選択肢の細かな比較で大きく差がつく試験」 だったと評価できます。
特に今年度は、問題文と選択肢の文章量が多く、 90分の試験時間内で41問を処理するためには、 知識だけでなく、読解速度と問題の取捨選択が必要でした。
- 前半は経営戦略論、中盤は組織論・人的資源管理、後半はマーケティングが中心
- VRIO分析、SWOT分析、PPM、価値連鎖などの定番論点が出題
- スリーサークルモデル、OD Map、組織エコロジー論などの周辺論点も出題
- 知識の暗記だけでなく、具体的な事例へ理論を適用する力が必要
- 一見もっともらしい選択肢の細かな誤りを見抜く力が求められた
第1問ではVRIO分析の4要件を具体的な事例に当てはめる力、 第2問ではSWOT分析の「弱み」と「機会」を正確に識別する力が求められました。
03問題別正答率
| 問題 | 正答率 | 問題 | 正答率 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 87.7% | 第22問 | 49.0% |
| 第2問 | 80.5% | 第23問 | 70.2% |
| 第3問 | 57.6% | 第24問 | 20.2% |
| 第4問 | 15.9% | 第25問 | 77.5% |
| 第5問 | 83.1% | 第26問 | 42.7% |
| 第6問 | 90.1% | 第27問 | 77.5% |
| 第7問 | 77.2% | 第28問 | 92.7% |
| 第8問 | 26.8% | 第29問 | 97.7% |
| 第9問 | 76.5% | 第30問 | 79.8% |
| 第10問 | 44.4% | 第31問 | 75.2% |
| 第11問 | 79.5% | 第32問 | 88.4% |
| 第12問 | 58.6% | 第33問 | 67.2% |
| 第13問 | 83.8% | 第34問 | 64.6% |
| 第14問 | 80.8% | 第35問 | 66.6% |
| 第15問 | 57.6% | 第36問 | 50.0% |
| 第16問 | 37.1% | 第37問 | 40.4% |
| 第17問 | 45.4% | 第38問 | 29.8% |
| 第18問 | 25.5% | 第39問 | 84.8% |
| 第19問 | 83.8% | 第40問 | 59.9% |
| 第20問 | 58.9% | 第41問 | 55.6% |
| 第21問 | 61.6% | - | - |
正答率が80%を超えた問題が複数ある一方で、 30%未満の問題も5問ありました。
受験生全体が得点できた問題と、 多くの受験生が迷った問題との差が非常に大きい試験だったといえます。
04正答率が高かった問題
| 順位 | 問題 | 正答率 | 主なテーマ |
|---|---|---|---|
| 1位 | 第29問 | 97.7% | マーケティングの基本論点 |
| 2位 | 第28問 | 92.7% | マーケティングの基本論点 |
| 3位 | 第6問 | 90.1% | 競争優位・経験効果 |
| 4位 | 第32問 | 88.4% | マーケティング |
| 5位 | 第1問 | 87.7% | VRIO分析 |
| 6位 | 第39問 | 84.8% | マーケティング |
| 7位 | 第13問 | 83.8% | スリーサークルモデル |
| 8位 | 第19問 | 83.8% | 取引コスト理論 |
| 9位 | 第5問 | 83.1% | 価値連鎖 |
| 10位 | 第14問 | 80.8% | 統制の範囲 |
VRIO分析、価値連鎖、経験効果など、 過去問で繰り返し出題される定番論点は高い正答率となりました。
価値連鎖については、主要活動だけでなく、 技術開発、人的資源管理、調達、企業インフラなどの支援活動も含むことを 正確に理解しているかが問われています。
難しい新規論点を追いかける前に、 このような基本問題を確実に得点することが合格の前提になります。
05難問ランキング
今年度の最難問です。PPMでは、市場成長率だけでなく、 相対市場シェアを計算し、基準の1.0を上回るか判断する必要があります。
正解は「イ」でしたが、最多回答は「ウ」で、 回答者の43.0%が選択していました。
- 相対市場シェアの計算方法が曖昧
- 4象限の条件を名称だけで暗記
- PPM上の分類と、その後の戦略判断を混同
労働基準法第24条に関する問題です。 正解は「エ」でしたが、50.0%の受験生が「ア」を選択しました。
- 労働法規を一般常識で判断
- 原則と例外の整理が不十分
- 「できる」「できない」の表現を正確に確認できていない
フィードラー、ヴルーム=イェットン、SL理論、 パス・ゴール理論を横断的に比較する問題でした。
- 複数のリーダーシップ理論を混同
- 提唱者と理論内容の対応が曖昧
- LPC、成熟度、参加度などの判断軸を区別できていない
正解は「ア」でしたが、52.0%が「エ」を選択しました。 ブルー・オーシャン戦略と集中戦略を混同した受験生が多く見られました。
- 「競争のない市場」という表面的な言葉だけで判断
- 集中戦略との違いを理解できていない
- バリュー・イノベーションの理解不足
7P、サービス・ドミナント・ロジック、SERVQUAL、 サービス・プロフィット・チェーンを比較する問題でした。
- サービス・マーケティングの複数概念を混同
- 7Pを単語だけで暗記
- 顧客もサービス提供プロセスの構成要素であることへの理解不足
正解は「エ」でしたが、「ウ」が41.7%と正解を上回りました。 価値前提、事実前提、権限、組織同一化などの理解が必要でした。
- 価値前提と事実前提を混同
- 権限を単なる命令権と捉えている
- 意思決定前提を組織が提供する意味への理解不足
正解は「エ」でしたが、52.6%が「ウ」を選択しました。 定性調査と定量調査、統計的検定の理解が問われました。
- 定性調査と定量調査の整理不足
- カイ二乗検定などの基礎知識不足
- 用語の印象だけで正誤を判断
高齢者雇用と厚生年金制度の関係を正確に理解する必要がありました。
- 老齢基礎年金と老齢厚生年金の支給停止範囲を混同
- 制度改正への対応不足
- 対象となる収入の範囲を整理できていない
優良企業が破壊的イノベーションへ対応できない理由を、 資源配分メカニズムから判断する問題でした。
- 理論を一般論や精神論に置き換えて判断
- バリューネットワークへの理解不足
- 破壊的市場は当初、小規模・低収益である点を理解できていない
外的報酬であっても、有能さの情報として受け止められれば、 内発的動機づけを高める場合があることが問われました。
- 外的報酬は常に内発的動機を下げると単純化
- デシ、ブルーム、ハーズバーグを混同
- 報酬の情報的側面と統制的側面の理解不足
06受験生の解答傾向
① 定番論点は高い正答率
VRIO分析、価値連鎖、経験効果、統制の範囲、取引コスト理論など、 過去問で繰り返し出題されている論点は、正答率が80%を超えました。
基本テキストと過去問を丁寧に学習していた受験生は、 安定して得点できています。
② 図表・事例への適用問題で正答率が急落
PPM、ブルー・オーシャン戦略、リーダーシップ理論などでは、 用語を知っていても、具体的な事例や選択肢へ適用できず、 正答率が低下しました。
「知っているか」ではなく、 「事例のどこがその理論に該当するか」 を判断する力が求められています。
③ 一見もっともらしい選択肢に引っ張られている
戦略の方向性としては妥当でも設問条件と異なる選択肢や、 前半は正しいものの、後半の結論が誤っている選択肢が多く見られました。
選択肢全体を読み、設問で指定された理論や判断基準に 最も合致するかを確認する必要があります。
④ 組織論は理論間の混同が多い
サイモン、デシ、フィードラー、ヴルーム=イェットン、シャインなど、 人物名と理論内容の対応が曖昧な受験生が多く見られました。
⑤ 労働法規・社会保険が弱い
労働法規や社会保険制度は範囲が広いうえ、制度改正もあります。 過去問演習だけでなく、直前期の制度改正確認が必要です。
⑥ マーケティングは基本と応用で差が大きい
基本的な用語問題は高い正答率でしたが、 マーケティング・リサーチ、統計的検定、 サービス・マーケティングなどの周辺論点で差がつきました。
07今回の結果から見える受験者の課題
課題1 理論を単語だけで覚えている
「VRIO=持続的競争優位」「PPM=4象限」のように、 結論だけを暗記していると、具体的事例に適用できません。
各理論について、分析目的、判断基準、類似理論との違い、 典型的な事例まで理解する必要があります。
課題2 選択肢の一部分だけを見て判断している
選択肢の前半が正しくても、後半に誤りが含まれる場合があります。 「必ず」「のみ」「すべて」「常に」「影響しない」などの 強い表現には注意が必要です。
課題3 設問の条件を読み落としている
「弱み×機会」「相対市場シェア1.0」「市場成長率10%」など、 設問に示された条件を使わなければ正解できない問題がありました。
本文を読む前に、 「何を基準に選ぶ問題なのか」を確認する習慣が必要です。
課題4 文章量に対する処理速度が不足
90分で41問を解くため、単純平均では1問約2分です。 長文問題を最初から丁寧に読みすぎると、 後半の問題で時間不足になります。
課題5 周辺論点への対応力が不足
スリーサークルモデル、組織エコロジー論、OD Map、 在職老齢年金、カイ二乗検定、サービス・マーケティングの7Pなども出題されました。
ただし、まず頻出論点を固め、その後に周辺分野を補強する順序が重要です。
08次年度に向けた具体的な対策・学習方法
過去問は回転ごとに目的を変えて最低3回転する
同じ問題を3回解くだけではなく、 回転ごとに達成目標を変えることが重要です。
1回転目:知識不足の発見
問題を○・△・×に分類し、 知らなかった用語、混同した理論、読み落とした条件を記録します。
2回転目:正誤理由の説明
正解肢だけでなく、すべての選択肢について、 どこが誤りか、どう直せば正しいかを説明します。
3回転目:時間内に判断
通常問題は1問90秒程度、 長文・図表問題は3~4分以内を目安に解答します。
- 根拠を持って正解できた問題は「○」
- 正解したが根拠が曖昧だった問題は「△」
- 誤答した、または知らない論点だった問題は「×」
- 「△」も未習得問題として復習する
- 4回転目以降は、間違えた問題と時間のかかった問題に絞る
選択肢の誤りを具体的に説明する
正解番号を覚えるのではなく、 各選択肢について次の3点を確認してください。
- 選択肢のどの部分までは正しいか
- どの言葉、因果関係、結論が誤っているか
- どのように直せば正しい文章になるか
例えば、ブルー・オーシャン戦略を 「既存市場を細分化し、狭い市場へ特化する戦略」とする選択肢は、 集中戦略との混同です。
復習ノートには、 「自分の誤答」「誤答原因」「正しい知識」 「混同した理論」「次回確認するポイント」 を記録します。
似た理論は比較表で整理する
組織論や戦略論は、理論を一つずつ覚えるより、 類似理論を並べて違いを比較する方が効果的です。
| 分野 | 比較すべき理論 |
|---|---|
| リーダーシップ | フィードラー、SL理論、パス・ゴール、ヴルーム=イェットン |
| 動機づけ | マズロー、ハーズバーグ、ブルーム、デシ |
| 組織文化・変革 | シャイン、レヴィン、組織開発 |
| 競争戦略 | ポーター、VRIO、ブルー・オーシャン |
| イノベーション | A-Uモデル、破壊的イノベーション、ドミナントデザイン |
比較表には、提唱者、理論の目的、判断基準、 重要キーワード、典型的な誤答表現を記載します。
表を作って終わりにせず、 「フィードラー理論とSL理論の違いを30秒で説明する」 など、表を見ずに口頭で説明してください。
PPMやVRIOは図を書いて判断手順を固定する
PPM、VRIO、スリーサークルモデル、製品ライフサイクルなどは、 文章だけで覚えず、自分で図を再現します。
PPM問題では、次の順序で判断します。
- 市場成長率が高いか低いかを確認する
- 相対市場シェアが1.0以上か未満かを計算する
- 4象限のどこに入るかを判定する
- 現在の分類と、今後の戦略判断を分けて考える
長文問題は設問要求を先に確認する
長文事例では、本文を読む前に次の条件を確認します。
- 「最も適切」か「最も不適切」か
- どの理論に基づいて判断する問題か
- SWOTのどの組み合わせを問うているか
- 現在の状態か、将来の方向性か
- 数値や基準値が指定されているか
読む目的を明確にしてから本文へ進むことで、 不要な読み直しを減らせます。
90分の時間配分まで決めて本試験形式で演習する
年度別過去問や模試は、知識確認だけでなく、 問題の取捨選択と時間配分を練習する教材として使用します。
- 90秒読んでも論点が分からない問題は保留する
- 選択肢を2回読んでも2択に絞れない場合は飛ばす
- 図表整理に3分以上かかりそうな問題は後回しにする
- 演習後は1周目終了時刻と保留問題数を記録する
- 点数だけでなく、判断速度が改善したかを確認する
労働法規・制度改正は直前期にまとめて確認する
労働基準法、男女雇用機会均等法、社会保険、 高齢者雇用などは、直前期に次の観点で整理します。
- 誰が制度の対象となるか
- 原則的な取り扱い
- 例外として認められるケース
- 禁止されている行為
- 近年改正された部分
マーケティングは周辺論点まで補強する
STP、4P、ブランド、価格、チャネルなどの基本論点を固めた後、 次の周辺分野まで学習範囲を広げます。
- サービス・マーケティング
- ソーシャル・マーケティング
- マーケティング・リサーチ
- 定性調査と定量調査
- 尺度の種類
- クロス集計と統計的検定
※正答率、平均正答数、平均得点および解答傾向は、 KEC自己採点フォーム回答者302名のデータに基づく集計であり、 実際の全受験者の結果とは異なる場合があります。



